長男が小学6年生の夏休みのことです。
8月の初め、地元の盆踊りのコンクールに参加するため、会場へ向かって歩いていました。
学校のクラブ活動の一環だったので、長男にとっては、出るのが当たり前だったのでしょう。
一緒に参加するのは仲のいい友達たち。
私は、せっかくコンクールに出るのだから、何か入賞するために自分にできることをしたいと思っていました。
浴衣を持っていない子もいたので、友達の分も含めて、お揃いの浴衣を5〜6枚縫いました。
みんなでお揃いの浴衣を着て踊ったら、見栄えもいい。
そんなふうに、私は陰ながら応援していました。
その日は夕方でしたが、まだ明るい時間。
駐車場から会場までは少し距離があって、長男と話しながら歩いていました。
コンクールのことや、一緒に参加する友達との待ち合わせのこと。
たぶん、そんな話をしていたのだと思います。
話をするときは自然と相手の顔を見ます。
そのときも、何かを確認しようとして、いつものように長男の顔を覗き込んだのだと思います。
そこで、
「あれ?」
と思いました。
なんだか変。
話していたことが、一瞬飛びました。
そして気づいたんです。
私の目線が、上を向いている。
「えっ、ちょっと、抜かされたんじゃない?」
そう言って、長男を止めました。
二人で並んでみると、やっぱり長男のほうが高い。
2〜3センチくらいだったと思います。
「夏休み前は私のほうが高かったよね?」
長男も、
「お母さんのほうが高かった」
と言っていました。
確かにそうだったんです。
長男が成長していることは、もちろん知っていました。
学校からもらう成長記録を見て、身長が何センチになったか、数字ではちゃんと把握していました。
でも、実感はしていなかった。
毎日一緒にいるからでしょうか。
立っているときも、座っているときも、いつも隣にいるわけではありません。
わざわざ横に並んで、身長を比べることなんて、ほとんどない。
だから、いつ抜かされたのかなんて、まったく分かりませんでした。
ただ、その瞬間は、ものすごく悔しかった。
成長したことが嬉しいとか、感動したとか。
そういうことより先に、
「負けた!」
と思ったんです。
私は昔から負けず嫌いなので。
ほんの2〜3センチ。
それなのに、なんだかものすごく大きな出来事でした。
会場に着けば、長男は友達と一緒にコンクールの準備です。
さっきまでの身長のことなんて、もうすっかり忘れていたのかもしれません。
私はというと、やっぱりちょっと気になっていました。
そして家に帰ってから、夫の前でも長男と並んでみせました。
やっぱり長男のほうが高い。
長男は「ほんとだ」というくらいの反応だったと思います。
何が変わったわけでもありません。
昨日までと今日で、親子の関係が変わったわけでもない。
ただ、いつの間にか、長男が私より大きくなっていた。
ずっと少しずつ伸びていたはずなのに、私には一日で追い越されたように感じました。
本当に、一日で伸びたのかと思うくらい。
もちろん、そんなわけはないのだけれど。
毎日一緒にいると、子どもの変化には案外気づかないものなのかもしれません。
あの日のことを思い出すと、今でも最初に浮かぶのは、
「いつの間に?」
という驚きと、
「負けた……」
という悔しさです。
でも、たぶん私があの日に感じたのは、身長のことだけではなかったのだと思います。
これから、子どもに追い越されていくことが、いろいろあるんだ。
そんなことを、初めて実感したのかもしれません。
あの夏の日は、そのことに気づいた、ひとつの境目でした。


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