あれは、長男が小学1年生の夏休みでした。
次男は年中、三男は3歳、四男はまだ1歳。
夫は長い夏休みがある仕事ではなく、お盆休みもありませんでした。
だから、家族そろってどこかへ出かけるような「特別な夏休み」は、わが家にはあまりありませんでした。
私は子どもたちを連れて実家へ帰るくらい。
しばらく実家で過ごして、学校が始まる少し前に4人を車に乗せて、自宅へ帰っているところでした。
高速道路を運転しながら、ふと思ったのです。
どこかに行きたいな。
夏休みがつまらなかったわけではありません。
ただ、せっかくの夏休みなんだから、どこかへ行きたい。
当時、わが家で高速道路を使って出かけるといえば、ディズニーランドでした。
家族みんなディズニーが好きで、毎年、多いときには年に何度か出かけていました。
とはいっても、自宅からは高速を使っても4時間ほど。
4人の子どもを連れて行くとなると、気軽なお出かけとは言えません。
それでも、その日はどうしても行きたくなりました。
もう、私の心はすっかりディズニーランドへ飛んでいます。
どうやって夫を説得しようか。
運転しながら、頭の中ではもう段取りが始まっていました。
家に帰ったら準備をして、夜に出発する。
朝にはディズニーランドに着く。
一日遊んで、夜に帰る。
そして、朝までに家に戻れば、長男は学校に間に合う。
夫は仕事中でしたが、メールをしました。
「今から家に帰って準備して、夜中に出発して、明日一日ディズニーランドで遊んで、夜中に帰ってくれば、明後日の学校に間に合うから行ってきてもいい?」
今思えば、なかなかの相談です。
夫も呆れたと思います。
でも、言い出したら聞かない私のことを知っていたのでしょう。
渋々、了承してくれました。
もう、うれしくて仕方ありません。
帰りの車の中から、子どもたちにも予定を説明しました。
長男には、学校の準備をしておくように。
次男と三男には、お出かけの準備。
車の中で見るDVDや、ポップコーンバケツなどを用意します。
四男はまだ1歳。
さすがに何のことかわかっていなかったと思います。
今から15年ほど前のことなので、今ほど夏の暑さが厳しくなかったとは思います。
それでも、夏のディズニーランドです。
暑さ対策もできる限り準備しました。
妹が東京に住んでいたので、パークで待ち合わせることにしました。
夜のうちに出発すると、子どもたちは車の中でぐっすり眠ってくれました。
まだ小さかったので、夜中の移動はむしろ楽でした。
そして、朝。
私たちはディズニーランドに到着しました。
妹夫婦とも合流して、一日たっぷり遊びました。
子どもたちが何をしたのか、今となってはほとんど覚えていません。
でも、きっと楽しんでいたのだと思います。
楽しかったからこそ、細かいことを覚えていないのかもしれません。
ただ、私がよく覚えているのは、とにかく暑かったこと。
今のような暑さ対策もなく、日陰や休める場所も少なかったように思います。
私は子どもたちの体調が気になって仕方ありませんでした。
こまめに水分を飲ませなきゃ。
暑くないかな。
大丈夫かな。
特にベビーカーに乗っている四男のことは気をつけていました。
一日中、順番に子どもたちへストローを差し出して、水分を飲ませていたような気がします。
今思えば、私は子どもたちのことばかり気にしていました。
自分がちゃんと水分を取っているかなんて、ほとんど考えていませんでした。
夫に無理を言って来たのだから、子どもたちに何かあってはいけない。
何としても長男を学校に行かせなければいけない。
当時の私は、そんなことばかり考えていたのだと思います。
そして、一日しっかり遊んで、帰路につきました。
帰りは、妹夫婦が気遣ってくれて、途中のサービスエリアまで運転してくれることになりました。
私は助手席に座りました。
妹が運転してくれている。
車の中は涼しい。
やっと少し休める。
徹夜で移動して、一日中真夏のディズニーランドで過ごしていたので、ほっとして目を閉じようとしました。
そのときでした。
「あれ?」
なんだか、視界が狭い。
周りが暗くなってきた。
気持ちが悪い。
これは、まずい。
そこで初めて気づきました。
私、自分ではほとんど水分を飲んでいない。
子どもたちにはあれだけ飲ませていたのに。
熱中症になったのかもしれない。
なんとか気をしっかり持とうとしました。
そして、やっとのことで妹に話しました。
「なんか、ちょっとおかしい」
妹は驚いて、すぐに旦那さんに連絡して、どうするか相談してくれました。
手元にあった水分を、今さらながら飲みました。
とても自分で運転できる状態ではありません。
妹が運転してくれていて、本当によかったと思いました。
急きょ、妹の家へ行くことになりました。
もう歩くのもつらい。
気持ちが悪い。
頭も痛い。
妹が「水分と塩分を取ったほうがいい」とお味噌汁を出してくれて、なんとか飲みました。
そして、ものすごく眠くなりました。
当たり前です。
徹夜で移動して、一日中ディズニーランドで遊んだのですから。
それでも、子どもたちのことが気になります。
夫にも連絡しなければ。
実家の親も心配しているだろう。
私がしっかりしなきゃ。
でも、そのとき私は、子どもたちがどう過ごしていたのか、ほとんど知りませんでした。
全部、妹夫婦が見てくれていたのです。
本当にありがたかった。
やっとの思いで夫と実家の父に連絡すると、二人とも同じことを言いました。
「今から迎えに行く」
思わず笑ってしまいました。
こんなときに、同じ反応をするんだな。
結局、迎えに来てもらっても、誰かが車を運転して帰らなければいけません。
それなら、今夜は妹の家で休んで、翌朝ゆっくり帰ろうということになりました。
みんな、本当にありがたかったです。
私はそのまま倒れるように眠りました。
翌朝。
なんとか動けるまでには回復していました。
まず思ったのは、
「学校に連絡しなきゃ」
でした。
長男の担任の先生に、正直に事情を話しました。
すると先生は、
「気をつけて帰ってきてください」
と言ってくれました。
予定では、夜中に帰宅して、長男はそのまま学校へ行くはずでした。
でも、そんなことはできませんでした。
結局、長男はその日、学校を休むことになりました。
あの日のことを思い出すと、無茶したなって思います。
4人の子どもを連れて、突然思いついてディズニーランドへ行って。
夜通し移動して、一日遊んで、また夜通し帰る。
今なら、もう少し考えると思います。
あの頃は、今ほど熱中症という言葉が身近に語られていたわけでもありませんでしたし、若かったので体力に自信もありました。
私は、子どもたちのことばかり気にして、自分のことは後回しにしていました。
無理はしても、無茶はだめ。
あの日、身をもってそう思いました。
そしてもう一つ。
子どもたちを心配するのと同じくらい、自分のこともちゃんと見ていなければいけない。
自分が倒れてしまったら、結局は周りの人に心配をかけることになるからです。
あの日、妹夫婦に助けてもらって、夫や父にも心配をかけて、長男には学校を休ませることになりました。
今思えば、ずいぶん周りに助けてもらった一日でした。
でも、子どもたちと一緒にディズニーランドへ行ったことは、今でもいい思い出です。
大変だったことも含めて。
あの頃の私は、子どもたちのことはよく見ていたけれど、自分のことはあまり見ていなかった。
もう少し自分にも目を向けてあげてもよかったな。


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